— 物語 —
深夜、お社の本殿。
黙朗が布団に潜り込んだあと、雪丸と大福は社務所の縁側に並んで座っていた。月が出ていた。
「黙、今日もよく動いた」雪丸がぽつりと言う。ぬるい夜風。
「うんうん。だ・い・じょぶ? って何回も思ったけど、ちゃんと最後まで動いたね〜」
縁側の向こう、ご神木の根元では、いつもより琥珀がほんの少しだけ、明るく光っていた。
「……あの琥珀、たまにこういう日に光るよな」雪丸。
「うん〜、ぼく、知ってる」大福が頷く。「黙ちゃんが、ちょっと遠くまで届いた日」
雪丸が首を傾ける。「遠くって?」
「えっとね〜、海を渡ったの。黙ちゃんの絵が。ぼく、感じる〜」
雪丸はしばらく何も言わずに琥珀を見つめていた。確かに、いつもの夜より、ほんの少し強い光。
「……そうか」
しばらく沈黙。風がご神木の葉を揺らした。
「……大福。お前、海って見たことあるか?」
「ない〜!雪丸は?」
「俺もない」
「じゃあ、今度黙ちゃんに連れて行ってもらお〜? 黙ちゃんの鞄の中ですやすやしてれば、海まで連れてってくれるよ〜」
雪丸はふっと笑って、琥珀の方へ顔を向けた。
「……まあ、悪くないな」
「でしょ〜?」
「……ただし、お前は重いだろ。鞄が壊れる」
「ふとってないもん!」
「たまには自分で飛べ」
「ヤダ〜!」
雪丸はもう笑っていた。
———
ご神木の葉がさらさらと揺れて、黙朗の寝室の障子に、月の光がやさしく差し込む。
社の奥、布団に包まれた黙朗の枕元には、いつものように、白いふくふくしたなにかが2つ、寄り添っている。
「黙、おやすみ」雪丸が小さく言う。
「黙ちゃん、おやすみ〜」大福が小さく言う。
朝が来るまで、二人は離れない。
ご神木の根元の琥珀は、夜が明けるまで、静かに、誇らしげに、光り続けていた。
了