— 物語 —
大福がお社の廊下をぽてぽて歩いていると、庭の垣根の隙間から、白いものがちらっと見えた。
足を止めた。
垣根の向こうに、白くて小さくて丸いものが座っていた。子猫だった。まだ目が大きくて、耳がぴんと立っている。大福と同じくらい丸い。白い毛がふわふわしていて、陽に透けてほんのり光っていた。
大福は息を止めた。
「……ぼくに、にてる」
———
子猫がこちらを見た。まんまるの目で。大福もまんまるの目で見返した。
しばらく、そうしていた。風が垣根を揺らして、葉の影が子猫の背中を横切った。子猫は動かない。大福も動かない。
やがて子猫がぷいっと向きを変えて、とてとて歩き出した。
「あっ、まって」
大福がぽてぽて追いかける。子猫はとてとて。大福はぽてぽて。速くはない。どちらも速くはない。お社の庭を、白い丸がふたつ、のんびり移動している。
雪丸が縁側から見ていた。湯呑みを片手に、眉をひそめている。
「……何やってるんだ、あいつ」
———
子猫が立ち止まった。大福も止まった。
庭の真ん中あたり、苔の生えた灯籠のそばだった。陽だまりが丸く落ちていて、地面がぬるくあたたかい。
子猫がもぞもぞと大福のそばに寄ってきて、ぺたんと座った。大福もぺたんと座った。
ふたつの白いかたまりが、並んでいる。どちらも丸い。どちらもやわらかい。見分けがつくのは、片方に耳があって、片方に嘴があることくらいだった。
———
夕方、黙朗が帰ってきた。
草履を脱いで庭に回ると、陽だまりの中にもちもちが二つ並んでいた。
「……増えてる」
「黙ちゃん! あのね、この子ね、ぼくのともだちなの!」
子猫がにゃあと鳴いた。大福がぽうと鳴いた。声の高さがほとんど同じだった。
黙朗がしゃがんで、子猫の頭をそっと撫でた。子猫が目を細めた。大福が「ぼくも!」と頭を差し出した。黙朗のもう片方の手が、大福の羽毛に乗った。
雪丸が奥からお茶を持ってきた。何も言わず、黙朗の隣に座った。
庭に、白いのが二つと、黙朗と、雪丸。灯籠の影がゆっくり伸びている。
どこにも帰る気配のない子猫の目が、薄くとろんと閉じた。その隣で、大福はとっくに寝ていた。
了