— 物語 —
「わたくし、決めましたの」
シキは朝の光のなかで、優雅に前足をそろえた。白い毛並みが絹のように流れる。
「これからは、雪丸さまとなかよくいたしますわ。おなじ、白いものどうし」
黙の頭のうえで、雪丸がちらりと見下ろした。おれとおまえは、種からして違うが。
「わたくし、考えたのです。雪丸さまは、空をとべる。わたくしは、とべない。ですから、雪丸さまが上に、わたくしが下に。これはとても、よくできた仕組みですわ」
そういう話ではない、と雪丸は思ったが、言わなかった。
「それにね、雪丸さま」シキはうっとりと目を閉じた。「わたくし、気づいてしまいましたの。雪丸さまのあの、まるくて、白くて、ふわふわしたところ……あれはきっと、わたくしのために、あるのですわ」
雪丸の羽が、わずかに逆立った。
「ちがう」
「ご謙遜を」
雪丸は、音もなく鴨居へうつった。
シキは、たいそう満足げにうなずいた。それから、ふと、頭上の白いふわふわを見上げて——瞳孔が、まあるくひらいた。
「……あら」
しっぽが、ぴく、と動く。
「わたくし、いま、とても、なかよくしたい気持ちですわ」
「よせ」
跳んだ。とどかなかった。いつものように。
シキは畳に着地して、天井をしばらく見上げ、それから何ごともなかったように毛づくろいをはじめた。
「猫は、追うものではございません。追われるものですわ」
追われていたのは雪丸である。
———
それから、シキはゆっくりと黙の膝のうえへ歩み寄り、そこで丸くなっていた大福の背に、そっと身を沈めた。まるくて、やわらかくて、あたたかい。ちょうどいい。
「大福は、よい子ですこと」
「ぽう」
大福は、されるがままだった。つぶれても、鳴きもしない。むしろ、ちょっと、うれしそうだった。
白いしっぽが、白いしっぽに、ゆるくからまった。指のかわりに。
シキは大福を枕に、優雅に目を閉じる。追えなかったことなど、もう忘れている。
「おやすみなさいまし、雪丸さま」
鴨居のうえで、雪丸はしばらく、その白いふたつを見下ろしていた。やがて、やれやれと羽をたたむ。
——悪くない、と思ったことは、言わないでおいた。
了