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— 物語 —

日陰の権利

その日は、風が死んでいた。

縁側の板は昼のあいだじゅう陽を吸って、夕方になってもまだ熱を吐いている。雪丸は羽をぺたりと寝かせたまま、庇の落とす日陰を睨んでいた。

一畳ぶん。それだけ。

「せまい」

「せまいねぇ」

大福が、もう半分を占めながら言った。もっちりした腹が板についていて、そこだけ影が濃い。

「おまえが太いからだろ」

「ちがうよ。おひさまが、いじわるなの」

そこへ、しずしずとシキが来た。歩き方が、暑さのなかでも崩れない。

「失礼いたします。……ずいぶんと、狭うございますね」

三人ぶんには、どう見ても足りなかった。

雪丸は少しのあいだ黙って、それから羽をひとつ動かして、日向のほうへ半歩出た。

「俺は暑いのに強い」

「うそだ」

「うるさい」

嘘だった。白い羽は光をよく弾くけれど、弾ききれないぶんは全部、背中に溜まる。

大福は、その背中をしばらく見ていた。それから、むく、と起き上がって、日陰のいちばん端まで下がった。シキも、反対の端に寄った。

「……なにしてる」

「ひかげを、ひろげるの」

大福が言った。真面目な顔で。

「ぼくたちが、こっちとこっちにいくと、まんなかがあくでしょ。そしたら、ひかげがのびるかも」

雪丸は少し考えて、それから、考えるのをやめた。

「のびない」

「のびるかもしれないでしょ」

「日陰は庇が作ってる。おまえらの位置は関係ない」

「……えー」

シキが、そっと目を細めた。

「雪丸さまのおっしゃることは、正しゅうございます。けれど」

ひげが、ほんの少し動く。

「わたくしどもが端に寄ったところで、真ん中が空くのは、ほんとうでございましょう?」

空いた真ん中を、二人は、そのままにしていた。

雪丸は、しばらくそこを見ていた。日陰は、一畳ぶんのまま、少しも増えていない。ただ、真ん中だけが、誰のものでもなくなっていた。

やがて雪丸は、何も言わずに戻ってきて、その真ん中に座った。

「……せまい」

「せまいねぇ」

両側から、もっちりしたのと、ふさふさしたのが寄ってくる。暑い。さっきより確実に暑い。

雪丸は、ぺたりと羽を寝かせた。

そのうち、どこかで風鈴が鳴った。風がないのに鳴ったので、たぶん誰かが通ったのだと思う。

「……ゆきまる」

「なんだ」

「ひかげ、ひろがったね」

「広がってない」

「ひろがったよ」

大福は、そう言って目をつむった。

雪丸は言い返そうとして、やめた。

暑い。けれど、さっきよりは、だいぶましだった。

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