— 物語 —
昼すぎ、黙は床に座りこんで、細い線をつなぎかえていた。古い箱をはずして、新しい箱をつなぐ。
大福がそばに来て、ほどいた線の束の上に、ぽすんと座る。
「大福、そこはだめ」
「ここ、すわりごこちいいよ〜」
黙は大福をそっと持ちあげて、膝の横におろした。大福は、おろされた場所でも満足そうにしている。
雪丸は頭の上から、黙の手もとをのぞきこんでいる。
「その線は、そっちじゃない」
「わかってる」
「わかっていない顔をしている」
黙は返事をせずに、線を差しこんだ。新しい箱に、小さな緑の灯がともる。
「……どうよ」
雪丸は、ふん、と小さく鳴いた。それが合格の音だと、黙は知っている。
シキは、はずした古い箱のにおいを、ていねいにかいでいた。
「黙さま。こちらは、もう、おやくごめんで……」
「うん。ありがとうって、言っといて」
シキは古い箱に向かって、ちいさく頭をさげた。
最後に、黙は封筒の口をのりで閉じた。大福が、その上にそっと乗る。
「おもし〜」
「ありがと。しばらく、そのままね」
大福はまじめな顔で、封筒の番をした。
◇
夜は、もう冷える。
休みの日は、片づけたもののぶんだけ静かになるらしい。出す封筒が一通、もう封をしてある。新しい箱には小さな緑の灯がともって、ときどき、瞬いた。
黙はソファに沈んで、膝の上の大福のおなかに、手のひらをのせる。
ぽこ。
「……」
もう一度、そっと。ぽこ。
「黙ちゃん〜。ぼくのおなか、太鼓じゃないよぉ」
「いい音がする」
「しないよぉ」
大福は体ごと傾いて抗議する。抗議しながら、手のひらの下から、どこへも逃げない。
「……でも、もうちょっとなら、いいよぉ」
頭の上で、雪丸が言った。
「黙。明日の郵便局は、朝いちばんだ」
「知ってる。ありがと」
雪丸はそれ以上なにも言わず、羽を一枚ぶん、黙の髪の中にしまいこんだ。
黙は大福を抱えなおして、そのおなかを枕にして、そっと頭をのせる。
大福が、ゆっくり平たくなっていく。
「黙ちゃん……ぼく、ぺたんこになっちゃう〜」
「重い?」
「おもくないよぉ。ぺたんこなだけ〜」
ソファの背から、シキがおりてきた。ぺたんこの大福と、その上の黙の頭を見おろして、ひと呼吸。
「……しつれい、いたします」
大福のおなかの端に、前足をそろえて、ふみ、ふみ。
大福が、すこしずつ、まるく戻っていく。枕にした黙の頭も、ふわりと持ちあがる。
「シキにゃん、ありがと〜」
「どういたしまして、で……ございます」
ふみふみは止まらない。丁寧に謝りながら、止まらない。
黙は目を閉じた。
頭の上から、雪丸の羽が、ふわりとかぶさった。
了